多膿胞性卵巣症候群(Polycystic ovarian syndrome:通称PCOS)は、排卵がうまく行われないために月経周期が延期したり(希発月経)、無月経になったり、不妊症になったりする疾患です。
通常、卵巣では周期ごとに1個の卵胞が2週間ほどかけて発育し、20mmほどの大きさになると排卵します。
しかし、PCOSの場合は卵胞の発育が遅く、またある程度の大きさになっても卵巣の表面が硬くなっているために排卵が起こりにくくなります。
通常の排卵では、卵胞が成熟するとその表面が破れて卵子が放出されます。
しかし、卵巣の表面が硬く厚くなると卵子が放出されにくくなり、排卵が困難になります。
排卵が起こらないと、卵胞が卵巣内に残り、卵胞が多数滞留する状態(多嚢胞化)が起こり、多嚢胞性卵巣(PCO)となります。
超音波画像で見ると、卵巣の表面に沿って未熟な卵胞が数珠つなぎに並んでいるのが見えるので『ネックレスサイン』と呼ばれています。
- 内分泌異常
- インスリン抵抗性(糖代謝異常)、肥満
- ストレス
- 10代の頃からの生理不順
- 遺伝的要因
などと関係があると言われています。
近年、若い女性の20人に1人が多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断されるほど、増加傾向にあります。
PCOSであっても自然に排卵・妊娠する場合があるため、気づかずに過ごす女性も多いですが、PCOSでは排卵障害が生じやすく、月経不順や不妊などの症状が現れることが一般的です。
多くの場合、不妊や月経不順で婦人科を受診し、検査でPCOSが判明します。
不妊症の原因の1~2割をPCOSが占めるとされています。また、排卵障害に加え、卵胞が多いため卵巣に送られる栄養が分散し、卵子の質が低下することも指摘されています。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)が疑われた場合、「ネックレスサイン」「ホルモン異常」「糖代謝異常」の検査を行います。
審査基準として、以下のの3つの項目を満たせばPCOと診断されます。
①月経異常
月経不順や無月経がの有無
②多嚢胞性卵巣
超音波検査で卵巣に卵胞がたくさん連なって見えるか(ネックレスサイン)
③内分泌検査
血中男性ホルモン高値またはLH(黄体形成ホルモン)が高値で、FSH(卵胞刺激ホルモン)が正常
多嚢胞性卵巣症候群の治療として、
・排卵誘発剤(クロミフェン、hMG-hCG療法)
・高プロラクチン血症薬(カバサール、テルロン、パーロデルなど)
・外科的手術(腹腔鏡下卵巣焼灼術)
などで排卵を促す方法が一般的です。
ただし、hMG-hCG注射による刺激によって、卵巣が腫れる『卵巣過剰刺激症候群(OHSS)』になることもあり注意が必要です。
また、インスリン抵抗性のある多嚢胞性卵巣症候群には、糖尿病の薬であるメトフォルミン(グリコラン、メルビンなど)を服用することがあります。
糖尿病の薬で血糖を下げて、インスリンの過剰な分泌を抑えるので、卵巣内で男性ホルモンも抑えられ、ホルモン環境が改善され、排卵しやすくなると考えられています。
PCOSは、乱れた生活習慣が積み重なることで引き起こされると考えられ、簡単に言えば「排卵していない状態」です。
生理周期が正常でも、排卵が起こっていない場合が多く見られます。
そこで「成熟した卵子を排卵すること」が重要なポイントとなります。
漢方では、PCOSは「痰湿」(不要な水分や脂肪が溜まる状態)や「瘀血」(血行不良による血液の停滞)が卵巣周囲に影響を及ぼし、卵巣表面が硬くなり排卵を妨げていると捉え、これらを改善することを目指します。
それ以外には、「肝鬱気滞」(気の流れが滞り卵巣機能に影響が出る状態)や「腎虚」(ホルモン内分泌系や生殖器の機能が低下している状態)、「脾気虚」(体内の気血が不足して排卵する力が不足する状態)など
PCOSは2~3種の体質がからみあっているため漢方薬を一人一人に合わせてお飲み頂く事が必要になります。
妊娠を希望する場合、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)による排卵障害があると、排卵のタイミングがつかみにくく妊娠しにくいことがあります。
しかし、排卵さえできれば妊娠する可能性は高く、「質の良い卵胞が毎月排卵できるかどうか」が重要になります。
質の良い卵子が育つためには、日々の生活習慣(睡眠や食事)大きく影響します。
女性ホルモンが最も活発になる夜10時から2時の間は「陰」の時間とされ、質の良い睡眠が卵胞の発育を助けます。
また、PCOSの原因である痰湿や瘀血は、日々の食生活や胃腸の働きとも関係が深く、冷たいものやアルコール、脂っこい食事、甘いものの摂取が痰湿を引き起こし、さらに瘀血を悪化させます。
他にストレスが多く、睡眠不足や不規則な食生活、冷たい飲み物の習慣が続く方はPCOSのリスクが高いため、生活習慣の見直しが大切です。
漢方薬の服用にあたっては、ライフスタイル改善も併せて提案し、自然治癒力や免疫力の向上をサポートしています。
症例①(28歳、女性)
治療のためにピルを服用していたが、服用を止めると月経が来なくなるのではと心配している。
初潮からずっと月経周期には問題はなかったが、社会人になってからはストレスが多く、月経が遅れるようになった。
基礎体温は変動が大きく、グラフの凸凹していて不安定である。
赤い色の舌をしている。
証:「肝鬱気滞(かんうつきたい)」
自律神経系や情緒の安定に関係深い『肝』の機能が、ストレスの影響で乱れている状態。
その結果、気の流れが滞り、卵巣機能に影響が及び、排卵がスムーズにできなくなっている。
ストレスによる月経不順、基礎体温の大きな変動などが起きるのが特徴。
漢方の治療としては、「四逆散(しぎゃくさん)」で肝気の流れを改善し、ストレスの抵抗性を高めていく。ストレスを緩めていき、卵巣の機能も正常化していく。
症例②(39歳、女性)
現在は体調を崩して不妊治療は休んでいるが、月経が安定せず、遅れ気味である。
基礎体温表を見ると、高温期と低温期の温度差が小さく、低温期から高温期への移行だらだらとゆっくりである。
男性ホルモン値が高く、ニキビができやすい。やや太り気味である。
赤い舌に黄色い舌苔が付着している。
証:「痰飲(たんいん)」
体内に異常な水液や物質が停滞している状態。
精神的ストレスや暴飲暴食などで生じた痰飲が、卵巣機能を低下してPCOSになている。
漢方の治療としては、一般的に「二陳湯(にちんとう)」で体内の異常な水液を除去して排卵しやすい体質を作っていく。今回の女性の場合は、「大柴胡湯(だいさいことう)」を服用してもらった。
肥満になると不妊症になる確率が3倍に増えるというデータがある。
卵巣の表面や周辺で排卵を妨げているものが、痰飲の除去する漢方薬を服用することにより、取り除かれたのかもしれない。
症例③(41歳、女性)
5年前に結婚したが子宝に恵まれず、3年前から不妊治療をしている。
黄体形成ホルモン(LH)が卵胞刺激ホルモン(FSH)より高いLH >FSHという状態である。
体外受精を5回行ったが、なかなか移植、着床までたどり着かない。
証:「腎虚(じんきょ)」
『腎』は生きるために必要なエネルギーや栄養の基本物質である「精」を貯蔵している。
腎が弱ってくると、ホルモン内分泌系や生殖器の機能が低下する。
年齢によっても、不妊治療を長く行うと腎の機能が低下してくる。
漢方の治療としては、「六味地黄丸(ろくみじおうがん)」などで腎の機能を補い、ホルモンバランスを調えて、自然な月経周期や排卵へと体調を安定させていく。
症例まとめ
多嚢胞生卵巣症候群(PCOS)の背景には、上記の症例のように、様々な体質があります。
症例②のように不妊治療を続けて体調の悪化、体力の低下を招いた場合、体力の向上や体質の強化を目的として漢方薬を使うことも多いです。
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