無月経

無月経とは?

月経は、女性の生殖機能やホルモンバランスを維持する重要な生理現象になります。

また、心と体の健康バロメーターとして影響を与え、ライフステージに伴い変化し、思春期から更年期まで女性の健康に深く関わっています。

無月経とは、月経(生理)が3か月以上続けて停止している状態を指します。

しかし、女性ホルモン低下と大きく関わる、思春期の前・妊娠中・授乳中・閉経後の無月経は正常です。

無月経を放置すると、将来の不妊に繋がる可能性や、心身の不調、さらには骨粗しょう症や動脈硬化のリスクが高まるなど、女性のこころとからだにさまざまな悪影響が及ぶ恐れがあります。

そのため、数ヶ月間生理が来ていない、または周期が極端に乱れている場合は、

背景に何らかの疾患が隠れていることがあるため、まずは検査でこれらを明らかにする必要があります。

無月経の分類

無月経には、大きく分けて以下の2種類があります。

18歳を過ぎても初経(最初の月経)が始まらない状態を「原発性無月経」と、

以前に月経があったが、何らかの原因で3ヶ月以上月経が停止している状態の「続発性無月経」があります。

生理が来ない女性の大部分は「続発性無月経」の状態です。

18歳を過ぎても月経(生理)が一度もこない状態を原発性無月経といい、0.5%の頻度とされます1)。また、これまであった月経が3か月以上とまった状態を続発性無月経といい、思春期から閉経期まであらゆる女性が経験する可能性があります。中でも、妊娠中や産後、閉経による無月経は生理的無月経といわれます。 【日本女性心身医学会】

漢方では、「続発性無月経」の治療が主に行われます。

無月経の原因として、女性ホルモンの乱れに加え、からだ全体のバランスの崩れにも焦点を当てていきます。

漢方を用いてからだを整えることで、長期間止まっていた月経が再開する場合もあります。

しかし、若い女性に多い過度なダイエットや偏った食事など日常生活の影響で、月経がなかなか回復せず、治療に時間がかかることも少なくありません。

子宮や卵巣の機能を回復させるためには、漢方で女性ホルモンの乱れや全身のバランスを整えつつ、日常生活の改善や養生によって胃腸の働きを強化し、体力をつけることが重要になります。

無月経の原因は?

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、視床下部や下垂体の機能不全(プロラクチノーマ)、甲状腺疾患、早発卵巣不全(POI)などがあります。

また、ストレスや過度なダイエット、冷え、睡眠不足、甘いものやこってりした食べ物をよく食べるなど、日頃の生活習慣の影響が無月経の原因となっていることも多く見受けられます。

漢方では、無月経と関係が深いものの一つが血になります。

そのような生活習慣が続くことで、体を巡っている血が減ったり流れが悪くなったりすることで月経が来なくなります。

さらに血の流れを動かしている気の失調も無月経に関わっています。

無月経の漢方で考えると

気血両虚(きけつりょうきょ)

過度のダイエットや拒食症も無月経の引き金になります。

生命エネルギーである気、人体に必要な血液や栄養である血の両方が不足している状態。

気血は生理の栄養(原料)で、女性にとって大切なものです。

気血が不足した状態が続くと、子宮や卵巣に十分な気のエネルギーと良質な血が届かず、栄養不足になって、卵の育ちや排卵に影響がでてきます。その結果、無月経になる傾向があります。

原因としては、過労や生活の不摂生、偏食、胃腸機能の低下、慢性疾患などの影響でこのような体質になってしまいます。

気と血を補う漢方を使用し、食事からの栄養素を見直すことでで根本治療を行なっていきます。

腎虚(じんきょ)

西洋医学的考えでは、生理は、脳(視床下部、脳下垂体)から指令をうけた卵巣で卵が成長し、女性ホルモンが分泌されることで起こります。しかし、加齢やストレスなどにより、視床下部-脳下垂体-卵巣のうちのどこかが障害されたり、卵巣のはたらきが低下すると、女性ホルモンの分泌に影響し無月経の原因になることがあります。

東洋医学的考えでは、腎が貯蔵する精は血の生成源であり、その精が少なくなることで血が不足し経血量が減り無月経になる。

原因としては、加齢やストレス、生活の不摂生、過労、慢性病による体力の低下などによりこのような体質になってしまいます。

漢方薬では腎を補う漢方を使用し、ホルモンバランスを整えて生活習慣の見直しをすることで根本治療を行なっていきます。

気滞瘀血(きたいおけつ)

ストレスやや過度な緊張状態が続くことで自律神経のバランスが崩れると、気血の巡りが滞り、

女性ホルモンの乱れや血流が悪くなることで無月経になってしまします。

仕事や家事で忙しい女性に多く、普段から肩こりや頭痛、腰痛など血行不良の症状や、

生理前や排卵前後にお腹が張る、胸が張る、ガスっぽい、イライラなどの症状が起こりやすい方によくみられます。

漢方では、気血を巡らせ流れを整えていくもので無月経の治療をしていきます。

無月経まとめ

無月経は、気と血をしっかり作れるようにし、気血の巡りを改善すれば、次第に女性ホルモンのバランス整い改善していく疾患です。

しかし、無月経の状態を長い間放置してしまうと、子宮や卵巣が萎縮して、妊娠しにくくなったり、女性ホルモンの乱れによる様々なからだの不調があらわてしまします。

多くの場合、ストレス、睡眠不足、ダイエット、不規則で偏った食事など、日頃の環境や生活習慣が、知らず知らずのうちにからだに負担をかけて無月経の要因となっています。

早めに気付き、漢方薬と養生で女性ホルモンのバランスを整えることで生理が再開することもあります。

生理の変化は、からだの訴えでもあります。一度、漢方薬で見直してみてはいかがですか?

無月経の症例

目次

症例①(35歳、女性)

「半年前に家族が病気で入院して以来、月経が止まってしまいました」

家族が入院してから体調がすぐれず、寝つきが悪く、眠りも浅くなった。

不安で動悸がしたり、イライラしたり落ち込んだりすることが増え、頭痛や肩こりもひどくなった。

舌は赤紫色。舌の裏側の静脈が紫色に浮き出て見えた。

証:「気滞瘀血(きたいおけつ)」

ストレスの影響で月経が止まっている状態。

強いストレスが、体の諸機能を調整(疏泄)する臓腑である『肝』を阻害して肝鬱気滞になり、さらに血流も滞る体質になってしまった。

ホルモンバランスが乱れ、血行が悪くなるために経血量が減り、無月経になった。

情緒不安定、イライラ、不眠、頭痛、肩こり、赤紫色の舌、舌下静脈の怒張などが起こるのが特徴である。

ため息が多い、冷えのぼせ、残尿感などの症状も伴う場合もある。

漢方の治療としては、「芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)」で気血の流れを改善して治療していく。

この女性の場合は、服用し始めて翌月、久しぶりに月経が来た。その後しばらくは遅れ気味だったが、6カ月ぐらいから毎月安定して月経が来るようになった。

症例②(24歳、女性)

「小さい頃から虚弱な体質で、初潮も遅めだった。その後もずっと月経不順で、年に数回しか月経が来ません」

疲れやすく、冷え性であり、下半身がむくむ。

舌は白っぽく、湿った舌苔が付着している。

証:「腎虚(じんきょ)」

『腎』は、生きるために必要なエネルギーや栄養の基本物質である精を貯蔵し、人の成長・発育・生殖ならびに水液や骨をつかさどる臓腑。

また「腎が血を生ず」といい、血を生み出す臓腑の一つで、腎の衰えることにより無月経になっている。

虚弱体質だけではなく、生活の不摂生、過労、慢性病による体力の低下、加齢などによっても起きる。

それに足腰がだるい、頻尿、耳鳴りなどの症状が見られることもある。

漢方の治療としては、「八味地黄丸(はちみじおうがん)」でホルモンバランスを整えて、無月経を改善していく。

この女性の場合は、服用し続け、8カ月後ごろには30〜35日くらいの周期で月経が来るまでになった。

冷え性ではなく、喉の渇き手足のほてり、紅色の舌などの熱証が見られるようなら、「六味地黄丸(ろくみじおうがん)」を使用する。

症例③(28歳、女性)

「ダイエットを繰り返しているうちに月経が来なくなり、それ以来ずっと低用量ピルを服用してきました。結婚して妊娠に向けてピルを止めたところ、また月経が来なくなりました」

疲れやすく、元気がなく、食欲もあまりない。

目も疲れやすく、かすみがちでときどき頭がふらつく。

白っぽい舌をしている。

証:「気血両虚(きけつりょうきょ)」

無理なダイエットをはじめとする無神経な食生活、過労、生活の不摂生、慢性疾患などにより気血が消耗するとこのような体質になる。

血が不足しているため、無月経になる。疲労倦怠感、元気がない、食欲不振、目の疲れかすみ、ふらつき、白色の舌などの症状が特徴である。

髪の艶がない、爪が割れやすい、軟便などの症状を伴うことがある。

漢方の治療としては、「十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)」「人参養栄湯(にんじんようえいとう)」などを使用する。

この女性が、人参養栄湯を服用してから10カ月後ぐらいに、月経が毎月来るようになり、その翌年に自然妊娠された。

血虚が長期化するなどして熱感、めまい、動悸などの熱証が生じる場合は、「三物黄芩湯(さんもつおうごんとう)」を使用する。食べ過ぎ、食事の不摂生、過度の飲酒で痰飲証で月経が来なくなっている場合は、「二陳湯(にちんとう)」「平胃散(へいいさん)」を使用する。

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